医学

「骨粗鬆症性椎体骨折治療の最新知見」について

はじめに

 今回は勤め先のクリニックで行われた院内勉強会の「骨粗鬆症性椎体骨折治療の最新知見」についてまとめていきたいと思います。

 その中の骨粗鬆症性椎体骨折の診断と治療についてまとめたいと思います。

  

骨粗鬆症性椎体骨折とは?

骨粗鬆症を背景として椎体の骨折のことです。
骨粗鬆症とは、骨の中身がスカスカになる病気のことで、密度が低下しているため衝撃に弱く、外傷機転にならないような軽微な動作によっても骨折に至り易なってしまう病気です。
椎体骨折とは、よく耳にするのでは背骨の圧迫骨折がよく挙げられます。転倒などによる衝撃が背骨にかかることで潰れてしまう骨折のことです。
上記の二つが合わさった椎体の骨折が骨粗鬆症性椎体骨折と言われます。

  

 

近年

超高齢社会で多くの高齢者が増加してきている現在は、骨粗鬆症性椎体骨折の診療体制が議論されています。

近年は
ADL維持の重要性が認識され、速やかな疼痛緩和と良好な健康関連QOL獲得に治療の重点が置かれています。
経皮的椎体形成術のように安全かつ有効な低侵襲手術が可能となり、椎体骨折の整復固定、さらには体動時痛軽減による日常生活動作の早期回復を目指すことができるようになったため、従来の治療体系を変えて対応することも多くなって来ています。
骨粗鬆症性椎体骨折を受傷する患者は、実は50歳代からいたりします。
5060歳代では背景である病態(骨粗鬆症)の治療や脊柱アライメントに留意して治療する必要がありますが、90歳代の超高齢者ではできる限り早く診断し、ADLの再獲得のために必要であれば早期手術治療介入を考慮することが重要です。

  

骨粗鬆症性椎体骨折の治療体系

この疾患の治療は、装具治療、投薬を中心とした保存的治療を主として行われます。

治療コンセプトは、装具の装着によって骨折椎体の不安定性を改善し、骨癒合を得られやすくすると同時に、動作に伴う腰背部痛を緩和させること。
しかし、骨粗鬆症を背景とした椎体骨折は転倒などの外傷機転がない軽微な動作による場合もあり、受診しないまま経過し、診断する機会を逃してしまうことがあります。
また、症状が体動に伴う疼痛のみであることが多く、
X線撮影を行わないままとなったり、骨折椎体の異常可動性の判断が難しく画像診断せれず、骨癒合が得られたとしても骨折椎体が過度に変形したり、骨癒合しないまま、癒合不全、偽関節へと移行し、さらには圧潰して神経傷害をきたしたりすることで侵襲の大きな脊椎手術が必要となる場合があります。
椎体骨折に骨癒合が得られないままとなると体動による疼痛が改善せず、骨折以前と同様の生活動作が困難となり、日常生活に支障が残ったままとなります。
経皮的椎体形成術は、侵襲の小さな手術であり、経皮的に骨セメントを用いて椎体骨折を安定化することで体動時の疼痛緩和を図る方法です。
さらに
balloon kyphoplastyBKP)は、拡張可能なバルーンを用いて骨折椎体内から椎体をできる限り整復し、低圧下に骨セメントを充填して固定する。
とういう手技であり、
1998年から米国で行われ、日本では2005年より臨床治験が行われ、2011年から健康保険の適応となりました。

 

 

早期診断の重要性

通常、受傷機転、疼痛不意などに対する問診、どのような疼痛かを診るため理学所見(体動による発生する疼痛、腫脹、熱感、内出血などの視診、圧痛、叩打痛)、及び画像所見を組み合わせて椎体骨折の診断を行います。
しかし上記のように骨粗鬆症性椎体骨折は軽微な動作に伴って発症しうる脆弱性骨折であり、椎体は身体の深部に位置しているため理学所見が取りづらいことがあります。
症状は体動に伴う腰背部付近の疼痛であるが、時に側胸部や臀部など、椎体骨折部以外の部位に疼痛を訴える場合もあり、診断が遅れる場合があります。
椎体骨折は画像診断は、骨折椎体の異常可動性を抽出することが決めてとなるX線撮影は体位、または時期を変えて撮影すると良い。
高齢者にとって体幹の伸展は困難で、しかも体動時痛がある場合、屈曲、伸展動作はさらに困難なことが多いです。
したがって、仰臥位で側面像を撮影し、座位、または立位で撮影した動態
X線画像を比較すると骨折椎体の異常可動性を認めることが多々あります。
仰臥位の撮影で椎体内のクレフトを認められば、異常可動性のある骨折椎体と診断できます。

側弯、肥満、陳旧性椎体骨折などがあると
X線像での診断が困難となる場合もあり、症状から椎体骨折を疑うもX線像で診断が困難な場合には、骨折診断で感度、特異度ともに良好なMRIを撮影することが推奨されます。
原則として骨折椎体の形状が保たれているほど骨癒合が得られやすいため、骨折から診断、治療開始までの期間が短いほど保存的治療が秦功しやすい。
各術式の臨床成績を分析する際にも、椎体骨折からの期間別、骨癒合状態別に評価することが良いです。
骨折椎体の形状が悪化するほどBKPの手技も難易度が上がり、圧潰のリスクも高くなってしまします。
できるだけ早期に診断し、骨折の形状と臨床症状、患者の日常生活への支障の程度を診ながら、できるだけ低侵襲な手術が容易にできるうちに手術治療介入を行うのが良好な治療成績を導く大切なポイント。
一般に、椎体骨折患者がより高齢であるほど、神経除圧を要する脊柱再建手術や、後弯矯正を伴った脊柱再建は合併症リスクを伴い、臨床成績も期待しづらいと言えるので、骨折椎体の形状が良好な間に手術治療介入を行った方が良い。

 

年代別に椎体骨折治療体系は変化する

骨粗鬆症性椎体骨折は、かなり広い年齢層の患者に発症する。
したがって各年齢層の患者における椎体骨折のインパクトや意味合いは異なる。
BKPでは骨セメントというbioinertなバイオマテリアルを椎体内に充填することとなります。
骨セメントは直接的、生物学的に骨と結合するわけではないため、骨折椎体への噛み込みが悪ければ常に緩みによる椎体再圧潰のリスクがあります。
BKPの適応は原発性の骨粗鬆症性椎体骨折です。
したがって、比較的年齢層の低い二次性骨粗鬆症患者に
BKPを施行することには注意が必要。
二次性骨粗鬆症と診断されていなくても、比較的低年齢層(例50歳代)で多椎体の椎体骨折があれば、良好な臨床成績が期待しにくいため、安易にBKPを施行すべきではない。
病態をしっかりと 把握し、椎体骨折の原病治療を根本的に考える必要があります。
骨粗鬆症性椎体骨折の初期治療は、あくまで保存的治療が第一選択です。椎体骨折治療はゴールは、骨折椎体を変形させることなく骨癒合させ、骨折以前のADLQOLまで回復すること。
したがって装具治療で骨折椎体の形状が保たれ、体動時の疼痛が緩和し、骨折以前の
ADLQOLまで回復するのであれば早期にBKPを行う必要はない。特に60歳代程度までであれば椎骨、脊柱のアライメントに主眼をおいて、できる限り椎体形状を保ちながら期限を設けて安静臥床とする治療も考慮したり、異物(骨セメント)を用いずに脊柱を再建する手術を行うことが可能な全身状態であれば、その選択肢を優先して良いと考える。
しかし、超高齢の椎体骨折患者では安静臥床による認知機能低下、食事摂取不良など、体動時の疼痛が緩和するまで安静臥床としてしまうと椎体骨折受傷以前のADLQOLに回復できない可能性もあります。
超高齢ではアライメントよりも
ADLQLの回復に主眼において、全身状態が許すならば、早期のBKP適応を考慮した方が良い。
上記のように、実際には年代別に椎体骨折診断、適切な治療、術式が選択されている可能性が高い。
疼痛緩和による
ADLQOLの回復、骨折椎体形態の維持はともに大事であるが、ゴールとして重要視する項目が変化し、受ける手術侵襲も変化するということも考慮すべき。

 

さいごに

骨粗鬆症性椎体骨折に対する低侵襲治療が可能となった現在、著しい楔状化を防止することや、早期の体動時痛緩和、椎体骨折前のADLQOL回復を目指す方向性に移行しつつあります。
年代別に椎体骨折治療のゴールを設定し、治療目的を明確にしながら手術方法を選択する必要があります。
今回学んだ知識を、より患者様の治療に貢献できるよう努めたいと思います。
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