今回は石橋英明先生のをまとめさせていただきました。
背景
ロコモティブシンドローム(以下:ロコモ)が提唱された2007年は、日本が高齢化率21%を超えて超高齢化社会に突入した年で、その後も高齢化率の上昇は続き、2016年では27.3%となった。
一方、要介護者も急激に増加しており、2000年の介護保険制度開始時に240万人であった要支援・要介護認定者は2016年には650万人まで増加している。
また、2013年に行われた厚生労働省の国民生活基礎調査によると、骨粗鬆症に伴う脆弱性骨折や、変形性関節症などの関節疾患、脊柱管狭窄症に伴う骨髄損傷などの運動器疾患が要支援・要介護認定要因の25%を占めている。
このように、未曾有の高齢者の増加、要支援・要介護者の急激な増加、その認定要因として運動器疾患の重要性から、提唱から10年経った2017年の現在もロコモの重要性はますます高いといえる。
ロコモティブシンドロームの概念
ロコモは「運動器の障害により移動機能が低下した状態」と定義されている。
ここで、運動器の障害とは運動機能の低下、バランスの低下、柔軟性の低下を示し、移動機能は起立、着座、歩行、階段昇降など移動に関わる機能を意味する。
主に加齢に伴う変化で、運動習慣の欠如、不活発な生活習慣、適切な栄養摂取などの要因によって加速する。
ロコモの対策は健康寿命は健康寿命の延伸につながる。
概念が広く知られることで、運動器の健康を維持することの重要性が理解され、具体的な対策に向けた行動変容につながるように進めていく必要がある。
ロコモティブシンドロームの評価法
ロコモは運動機能の低下と運動器疾患とを統合した概念である。
運動器疾患の評価は、疾患固有の診断法、評価法があるため、ロコモの評価としては運動機能評価が中心となっている。
その評価として、自分で運動機能低下に気がつくための自己チェックであるロコモーションチェックと、ロコモの判定法としてのロコモ度テストがある。
ロコモチェックは、介護予防の基本チェックリストや転倒スコアなどで使われている項目から抜粋した7項目のうち、1項目でも該当項目があると運動機能が低下しており、現在または将来のロコモの懸念があるとされる。
ロコモ度テストは下肢筋力を評価する立ち上がりテスト、歩幅を評価する2ステップテスト。
運動器の症状や生活機能などを評価する質問票であるロコモ25の3テストからなる。
立ち上がりテストは、10〜40センチの台に腰をかけた状態で両脚または片脚で立ち上がれるかをみる。
2ステップテストは、両脚を揃えた状態からできる限りの大股で2歩進んで両足を揃えて止まり、2歩で進んだ距離(cm)を身体(cm)で割った値を評価する。
ロコモ25は、25項目からなる質問票で、各設問の5項目の選択肢に0〜4点が配点され、合計0〜100点で評価する。
0点が最も良い状態で、100点が最も悪い状態を示す。
ロコモティブシンドロームの対策
ロコモは加齢とともに進行し遺伝背景や他臓器の疾患にも影響されるが、可変因子として運動習慣、栄養摂取状況、生活習慣も重要である。
運動習慣
中等度のレジスタンストレーニングおよび有酸素運動、中等度の強度のスポーツや体操などを週2回以上続けることが推奨される。
日本整形外科学会から提案されるロコモーショントレーニングがある。
これは下肢筋力を強化するスクワット、バランスを維持・改善する開眼片脚起立運動、さらに下腿三頭筋を強化するヒールレイズ(踵上げ)、下肢筋力・バランス・柔軟性を高めるフロントランジからなる。
歩行の自立は高齢期の自立に直結するため、ロコトレは下肢筋力とバランスを重視しているが、高齢期の運動機能として、上肢や体幹筋力、柔軟性や瞬発力や持久力も重要である。
栄養摂取
栄養素のバランスのとれた食事をとることを基本として、タンパク質やカルシウムとともに、ビタミンD、K、B12、葉酸が不足しないように摂取することが重要である。
高齢者ではまた多様な食品を摂取することが重要で、食品の多様性が運動機能と関連すると報告されている。
ロコモティブシンドロームと骨粗鬆症
ロコモの提唱は、高齢化の進行による要介護の急増に対処することを主目的としているが、このことは骨粗鬆症と虚弱性骨折の予防の目的と同じである。
虚弱性骨折は運動器関連では最も多く、骨折予防はロコモ対策中でも特に重要といえる。
さらに、骨折は重要な運動器疾患であり、運動機能を著しく損なう。一方、骨強度の維持・増加と転倒予防には運動が有効であるため、ロコモ予防の普及と推進が骨折予防にもなる。
このようにロコモと骨粗鬆症は、予防・改善の目的としても、概念としても、対策としても深く関連している。