FAIとは?
FAIは、大腿骨および寛骨の骨形態異常によって股関節動作時の衝突が生じる病態と定義されています。
その結果、股関節唇や関節軟骨の損傷が生じ、将来的に変形性股関節症を生じさせるといわれています。
FAIによって生じる機能障害は?
FAIでは股関節や骨盤帯に様々な機能障害が生じることが報告されています。
骨性のインピンジメント(衝突、挟まる)により股関節の屈曲、外転、内旋可動域が制限されます。
歩行時においては、矢状面(横から見た面)と横断面上(上から見た面)での股関節の可動性低下、骨盤帯の可動性低下が生じると報告している研究もあります。
また深いスクワットを行うと骨盤の矢状面の可動性低下から後傾角度が減少していたとの報告もあり、股関節だけではなく仙骨も含めた脊椎・骨盤帯の可動性低下が生じていることが明らかになっています。
インピンジメントによって股関節唇や関節軟骨が損傷すると、関節の求心性(外れないようにする力)が損なわれ関節不安定症が高率で生じることも報告されています。
FAIに対する保存療法の実際
FAIの機能障害は大きく分けて①股関節可動性低下、②股関節安定性低下、③骨盤帯可動性低下、④骨盤帯安定性低下の4つとなります。
これらに対して個別のアプローチを行う必要があります。
①股関節可動性低下に対するアプローチ
筋にはストレッチに効果的な姿勢があります。ここでは個別でその姿勢を説明することは割愛しますが対象とする組織が最も効果的に伸張される肢位を考慮し、ストレッチを行うことが重要です。
また対象とする筋に徒手的なマッサージや収縮・弛緩を繰り返し行うことで可動域改善が得られることがあります。
しかし、ストレッチの姿勢自体が股関節の症状を増悪させないように注意することも必要です。
②股関節安定性低下に対するアプローチ
股関節の動的安定化機構として股関節深層に存在する筋の機能も近年注目されています。Cooperは股関節包に付着する筋としてiliocapsularis、小殿筋、大腿直筋反回頭、内閉鎖筋と上下双子筋の共同腱、外閉鎖筋が関節の安定性に寄与することを報告しています。またLewisは腸腰筋が股関節前方の安定化作用を有するとしてます。
これらの報告より股関節包に広い付着を持つことから小殿筋や内・外閉鎖筋、腸腰筋の筋機能が股関節の安定性に重要と考えられます。
以下に小殿筋、内・外閉鎖筋のトレーニングを一部示します。
③骨盤帯可動性低下に対するアプローチ
骨盤帯の可動性低下の原因として多く経験するものとして①胸腰筋膜の過度な緊張、②大腿筋膜張筋-腸脛靭帯のタイトネス、③肩甲帯―胸郭―腰椎―骨盤帯の可動性低下が挙げられます。
①胸腰筋膜の過度な緊張
胸腰筋膜は後部腹壁に存在する複数の筋膜からなっています。広背筋や腰方形筋だけではなく外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋などの前外方の筋群とも連結があり、これらの筋の緊張が高まることで骨盤の後方傾斜を阻害すると考えられます。
胸腰筋膜に対する徒手的なマッサージや腹斜筋群のストレッチが有効な場合があります。
②大腿筋膜張筋-腸脛靭帯のタイトネス
大腿筋膜張筋は上前腸骨棘、腸骨稜前部、大腿筋膜深層から起始しているため柔軟性低下すると同側骨盤の後方傾斜を妨げると考えられます。
他動的なストレッチや収縮・弛緩を繰り返し行うことで柔軟性改善が期待できます。
③肩甲帯―胸郭―腰椎―骨盤帯の可動性低下
骨盤帯の可動性には隣接する腰椎の可動性が大きく影響し、腰椎の可動性には胸郭・肩甲帯の可動性が影響します。よって骨盤帯の運動には腰椎、胸郭、肩甲帯が十分な可動性を持つことが重要となります。
以下にこれらを考慮した運動を一部示します。
④骨盤帯安定性低下に対するアプローチ
腰椎・骨盤帯の安定化には腹横筋や多裂筋などの深層筋群が重要です。plankは表層筋の活動も高まりますが深層筋の活動も生じるため有効です。腰椎の前弯増強や体幹の回旋などの代償動作が生じないように正しい姿勢で運動を行うことが重要です。
まとめ
ここまでFAIの病態、保存療法について記載してきました。
FAIの原因は人それぞれ違います。ここで示した運動が皆さんの現在の症状を和らげるものとは限りません。
もしFAIやその他の疾患で股関節周囲に痛みがある方は、ここで示した運動を実施するのではなく、まずはお近くの整形外科などで診察してもらうことをおすすめします。
参考・引用文献: 特集:スポーツ股関節痛 ―診断と治療― 2018