浮腫とは
「浮腫(edema)」とは、一般的に「むくみ」などと呼ばれることもあり、以下の様に定義されている。
血漿量の増加あるいは減少を問わず、細胞外液、特に組織間液が異常に増加した状態
浮腫は「水腫」とも同義である。
理学療法事典から引用
浮腫とは
細胞外液量、特に間質液量が異常に増加・貯留した状態。
通常、間質液が2〜3ℓ以上に増加すると、臨床的に浮腫と判定されやすい。
体重増加、皮間上から圧迫で圧痕を残すことによって確認できる。
浮腫は、心臓・腎臓・肝臓の病気で起こりやすかったりする。
また、高齢者では病気でなくとも様々な要因で浮腫が生じてしまう。
例えば
- 運動不足や麻痺など様々な要因でリンパ液や血液の循環が悪くなる。
- 低栄養でアルブミンが減って、水分が毛細血管から染み出す
※高齢者は前述した心臓・腎臓・肝臓などに何らかの持病を有していることが多く、さらに運動不足や低栄養が重なるなど原因の複雑化していることも多いということ。
※浮腫は(浮腫は細胞外液の貯留によって)心臓より低い位置に置かれた四肢の遠位部(手足)に起こりやすい。
浮腫と腫脹の違い
「浮腫(edema)」に類似した用語として「腫脹(swelling)」という用語があり、それぞれ、理学療法事典では以下のように記載されている。
腫脹(swelling)とは
臓器あるいは組織の体積が増大している状態。
理学療法では炎症症状に伴った腫脹を扱うことが多い。
感染、物理的刺激、化学的刺激、アレルギーなどによる炎症反応において、充血が起こると血管壁の透過性が亢進する。
その結果、血液成分などの滲出物が組織に貯留すると腫脹の一因となる。
腫脹は、理学療法の際には視診や触診によって確認できる場合もあるが、充血によるものか浮腫によるものかについては必ずしも両者の区別できないことも多い。
個人的には、「腫脹=炎症に伴った腫れ」といった解釈が整理しやすいのではないかと感じる。
※外傷などで生じる炎症には「腫脹・発赤・疼痛・熱感・機能障害」が起こるというのが教科書的な表現である。
※しかし、これら「炎症の5大徴候」が浮腫で表現されることはみたことがない。
炎症を伴った「腫れ」は腫脹と表現するといった考えは間違いではないだろう。
ただし、教本において「腫れ」を解釈する場合、腫脹を含めて「浮腫」と表現している場合もあるため、「浮腫」という用語に触れる際は、この点に関して混乱しないように注意が必要である。
浮腫の原因・分類
浮腫は心臓・腎臓・肝臓などで生じやすいと前述したがもう少し詳細に原因別に浮腫を分類する。
※ただし、前述した「腫脹」も含めた上での分類である点には注意してほしい。
疾患別に浮腫はザックリと2つに分類できる。
- 局所性の浮腫
- 全身性の浮腫
ここからは、局所性・全身性の浮腫に影響を及ぼす因子について
浮腫における局所性の因子について
浮腫における局所性の因子は以下となる。
「毛細血管において血管内から血管外(組織間)へ水分を移動させる因子」
毛細血管を介する水分の移動は以下の3つの因子によって規定される。
- 毛細血管透過性
- 毛細血管内圧
- 血漿膠質浸透圧
つまり、以下によって体液は毛細血管から組織間へと移動し浮腫が発生するということになる。
- 毛細血管透過性の亢進
- 毛細血管内圧の上昇
- 血漿膠質浸透圧の低下
浮腫における全身性の因子について
「腎臓からのナトリウム(Na)・水の排泄を減少させて体内位はNa・水を貯留させ、細胞外液を増加させる因子」
「全身性浮腫」は以下が複雑に組み合わさって発生すると考えられる。
・前述した「局所性浮腫における局所性因子」
・ここで述べた「全身性因子」
局所性・全身性浮腫の一覧
前述したように、全身性の浮腫は「局所性因子と全身性因子」が複雑に組み合わさって発生したものと言える。
※局所性の浮腫の欄に「炎症」との記載があるが、前述したようにこれは(厳密には)「腫脹」と表現した方がいいかもしれない。
※上記はあくまで疾患別の分類であり、これ以外にも抗重力位を保持し続けたり(重力に負けて体液が尾側・下方へ停滞してしまう)、体を動かさなかったり、(例えば、主には筋ポンピングによる体循環不全が起こるなど)で、「疾患が無くとも浮腫が起こる」ということは有り得る(原因不明な浮腫を「特発性浮腫」と呼んだりする)
※上記では局所の浮腫として「リンパ浮腫」を上げたが、「リンパによる問題は(浮腫も含めて)、軽微なリンパ機能障害まで含めると信憑性が有りそうなものから眉唾物なものまで多岐にわたる。でもって「疾患がなくとも起こる浮腫」の中には、そういった軽微なリンパ機能障害が含まれている可能性もある。
局所浮腫(主にリンパ浮腫)における考え方
浮腫の左右差を比較することで、大雑把に「全身性の浮腫」なのか「局所性の浮腫」なのかを判断することができる。
※「一側のみの浮腫」であったり「部分的な浮腫(腫脹)」であったりは「局所性の浮腫」に該当する。
リンパ浮腫では、左下肢の方がむくみやすいと言われている。
その理由は以下の通り。
「腹部で左下肢からくる血液を運ぶ静脈の腹側に動脈がある。
動脈は丈夫であるが、静脈は薄いため、背臥位になると静脈が腸と動脈の重みで圧迫され、左下肢から戻る体液の流れが悪くなる。
つまり左下肢の方が浮腫みやすいのは血管の配置的な問題も関与する。」
上記によって左下肢の浮腫が強い場合であれば、以下のような対策で改善される可能性もある。
「背臥位に寝る時間をできるだけ短くし、シムス位や腹臥位で寝るなど、小まめに体位変換をする」
また、この部分では血液の流れが滞りやすいため血栓も出来やすくなる。
なので、左下肢だけ突然ひどくむくむような場合は、左の骨盤内の静脈血栓を疑う必要がある。
また前述したように高齢者は、心臓・腎臓・肝臓などに何らかの持病を有していることが多く、更に運動不足や低栄養が重なるなど原因の複雑化していることも多い。
そうなってくると、前述した「全身性因子」や、以下の「局所性因子」が容易に異常をきたし易い条件が整っていると言える。
- 毛細血管透過性の異常
- 毛細血管内圧の異常
- 血漿膠質浸透圧の異常
骨折後の浮腫について
骨折後の浮腫は、局所性の浮腫(localised edema)であり、皮下組織への急激な体液の貯留によって引き起こされる。
同時に浮腫自体が公叔の原因の一つとなる。
※急激な体液の貯留は、皮膚や皮下組織をある程度伸張した状態とするため関節可動域制限することになる。
また浮腫が強い状態で他動的に動かそうとすると、疼痛の原因ともなり得る。
このような浮腫をdressing等で軽減・除去することで、即時的に可動域の改善が得られる場合がある。
実際の浮腫管理は、毎回の治療開始時に伸縮性の高い弾性包帯とガーゼを用いて浮腫の改善を行う。
治療の時間以外は、弾性包帯の伸張性の低いものに変更し浮腫予防を行います。
※皮膚に問題があったり、褥瘡の危険がある場合は、必ず整形外科医に確認し施行する必要がある。
浮腫の治療・リハビリにおける注意点
浮腫は「症状」であって「疾患」ではない。
よって、「浮腫という症状を起こす疾患(あるいは原因)」は前述したように多岐にわたるため、その原因に合わせて治療していく必要がある。
例えば
リハビリ職種の中には「下肢が浮腫んでいる=リンパマッサージしよう」などと安直に考え、延々とリンパマッサージをしてしまうケースが存在する。
しかし、原因が心疾患などである場合、一時的に効果は臨めても根本的な解決にはなっていない。
もちろん、以下のように「根本原因の解消にならない浮腫にするリンパアプローチに」完全否定しているわけではない。
- 自由診療をしており、本人が「根本的原因は脇に置いて浮腫を一時的にでも何とかして欲しい」と望んでいる。自由診療(や一部の外来クリニックなど)では(デマンドはともかくとして)本人のニーズを満たしてあげることが最優先事項であることも多い。
- 浮腫は動作をを阻害するため、一時的な効果しかなくとも、その直後に実施する運動療法(ADL動作訓練も含む)を遂行しやすくなる(一時的であっても軽く動けるようになることは、本人の活動に対するモチベーション向上にもつながる。)
※また、「全身に浮腫が起こっている場合」においても、実際には「局所性の浮腫」も混在している可能性は非常に高く、その場合は「局所性の浮腫に関してだけでも介入した方がいい」といった考え方もある。
ただし、リハビリ(理学療法・作業療法)の時間制限がある中で、その部分を「漠然と浮腫に対するアプローチ(+軽運動)」だけに費やして終わらせてしまうというのは、特に高齢者のように生活不活発病が生じやすい人達に対しては注意が必要で有り、ニーズとデマンドを十分に考慮しながらリハビリ(理学療法・作業療法)を実施した方がいいと思うこともある。
浮腫の治療・リハビリにおける注意点
ほとんどをリンパマッサージの是非に熱くなってしまったが、浮腫への対策としてはいかがあるため補足していく。
- 下肢の挙上(四肢末梢でなおかつ重力の影響で体液循環が不良となりやすいので「下肢」と記載したが、浮腫が起こっている部位を挙上すること)
- 自他動運動
- マッサージ
- ドレナージ
- メドマーなどのエアーパンピング
- 温冷交代浴
などなど
※浮腫は拘縮を促進するので手指の浮腫対策は重要となる。
※浮腫のある皮膚は伸張され薄くなっていたり、脆弱化していたりするので、摩擦や圧迫などの機械的刺激によって損傷しやすい点にも注意が必要。
※全身性の浮腫を有する患者は、心肺機能・肝機能・腎機能などが低下している患者な可能性があるため、これらの臓器に負荷がかかるリハビリ(理学療法・作業療法)は慎重に行う必要がある。