「ホメオスタシス」という言葉をご存じでしょうか? 端的に表わせば、ホメオスタシスとは「なるべく今の状態を維持しようとする働き」。「恒常性」とも呼ばれます。
生物および鉱物において、その内部環境を一定の状態に保ちつづけようとする傾向のことである。
今回は、ホメオスタシスの機能や具体例、ホメオスタシスを調節して現状を変化させる方法について、詳しく解説していきましょう(※本稿は、生物学の用語を主に扱います)。
また後半では
生理学的なホメオスタシスだけでは医療従事者にしか利益になりませんので、補足として心理学的なところはみなさんの役に立つと思うのでぜひ読んでいただけたらと思います。
なりたい自分に楽になれるように、、、
経緯
1859年頃、生理学者クロード・ベルナールは、生体の内部環境は組織液の循環等の要因によって外部から独立している(内部環境の固定性)と提唱した。これを1920年代後半から30年代前半頃に生理学者ウォルター・B・キャノンが古典ギリシア語で同一の状態を意味する「ホメオスタシス」と命名した。
概説
恒常性は生物のもつ重要な性質のひとつで生体の内部や外部の環境因子の変化にかかわらず生体の状態が一定に保たれるという性質、あるいはその状態を指す。生物が生物である要件のひとつであるほか、健康を定義する重要な要素でもある。生体恒常性とも言われる。
恒常性の保たれる範囲は体温や血圧、体液の浸透圧や水素イオン指数などをはじめ病原微生物やウイルスといった異物(非自己)の排除、創傷の修復など生体機能全般に及ぶ。
恒常性が保たれるためにはこれらが変化したとき、それを元に戻そうとする作用、すなわち生じた変化を打ち消す向きの変化を生む働きが存在しなければならない。これは、負のフィードバック作用と呼ばれる。この作用を主に司っているのが間脳視床下部であり、その指令の伝達網の役割を自律神経系や内分泌系(ホルモン分泌)が担っている。
調節メガニズム
視床下部-下垂体を中心とした内分泌器系は、体内のさまざまな恒常性を保つためにフィードバック機構により調整されている。
化学緩衝系を構成することにより体液のpHなどを安定化させる機構がある。
具体例
- 気温にかかわらず、体温を36度程度に保つ。
- 身体のなかに細菌などの異物がない状態を保つ。
- 軽いけがをしたりかぜをひいたりしても、時間が経てば健康な状態に戻る。
- 塩分濃度や血糖値など、体液の組成を一定に保つ。
- 体内の水分量を一定に保つ。
- ダイエットを始めても、体重が減りづらくなる。
仕組み
日本成人病予防協会によると、ホメオスタシスには、自律神経・内分泌・免疫という「3大システム」があります。外からストレスが加わり、ホメオスタシスが乱されそうになったとき、3大システムが守ってくれるのだそうです。
自律神経
自律神経は、呼吸・心拍・血圧・体温・発汗などをコントロールする役割をもち、「交感神経」「副交感神経」の2種類があります。簡単にいうと、交感神経は身体を「戦闘モード」にするもの、副交感神経は「リラックスモード」にするものです。
ストレスなどでホメオスタシスが崩れそうになったときは、交感神経が活性化し、ノルアドレナリンなどのホルモンが分泌されます。このノルアドレナリンが、心拍数や血圧、体温の上昇などを引き起こし、身体は「臨戦態勢」に。大事な試験や会議の前に心拍がバクバクと速くなるのは、交感神経の働きによるものなのです。そして、ストレスが去ると、副交感神経が活性化し、身体は落ち着いた状態に戻っていきます。
内分泌系
“内分泌” とは、血管や細胞を通し、身体の “内側” へホルモンなどを分泌する作用。ちなみに、対義語の “外分泌” とは、発汗作用など、身体の外へ物質を出すことです。
内分泌系は、分泌するホルモンの種類や量を調整することで、ホメオスタシスを維持しています。
免疫
免疫とは、異物やストレスに対する防衛反応のこと。私たちが簡単にかぜをひいたり体調を崩したりしないのは、侵入してきた細菌や異物を免疫系がブロックしてくれているからです。免疫系は、白血球などによって担われています。
ホメオスタシスの維持は、上記の「3大システム」が2種類の「フィードバック」をすることで行なわれるものです。
- プラスのフィードバック:神経やホルモンの働きを強める。
- マイナスのフィードバック:神経やホルモンの働きを抑える。
心理学におけるホメオスタシスとは
心理学におけるホメオスタシスとは、「今のライフスタイルや環境をなるべく維持しよう」という心理です。心理的ホメオスタシスには、良い面と悪い面があります。
良い面は、私たちの生活に安定をもたらしてくれること。心理的ホメオスタシスがなければ、A社に入ったと思えばすぐに飽きてB社に転職したくなるというような、落ち着きのない不安定な生き方になってしまいますよね。
悪い面は、自分を変えたいとき、新しい挑戦をしたいとき、心理的ホメオスタシスが足かせとなってしまうこと。せっかく始めたランニングが三日坊主に終わってしまうのも、勉強する習慣がなかなか身につかないのも、ホメオスタシスが従来の習慣を維持しようとするのが原因なのです。
そのため、「自分を変えたい」と考えているときは、ホメオスタシスをいかに「解除」するかが重要。そこでカギとなるのが、ホメオスタシスにおける「コンフォートゾーン」という概念です。
コンフォートゾーンとは
認知科学者の苫米地英人氏によると、「コンフォートゾーン」とは、心理的ホメオスタシスが維持しようとする従来の環境・ライフスタイルです。直訳すれば、“快適な領域”。コンフォートゾーンにいれば、まさに「温かい布団」に包まれるように、無理をせず快適に暮らしていくことができるのです。
「朝はギリギリまで寝ている」がコンフォートゾーンだとしましょう。この状態から「朝6時に起きてランニングする」習慣を始めようとしても、コンフォートゾーン外の “不自然な” 行動なので、ホメオスタシスが働き、「ギリギリまで寝ている」状態からなかなか抜け出せないのです。
ホメオスタシスを解除し、新しい習慣を身につけるためには、コンフォートゾーンを移動させる必要があります。先の例だと、「朝6時に起きてランニングする」がコンフォートゾーンになれば、「朝6時に起きてランニング」は当たり前の行為となり、むしろ寝坊するほうが気持ち悪いと感じるようになるのです。
解除する方法1:自分が理想とする人と付き合う
ホメオスタシスを解除するためコンフォートゾーンを移動させるには、「付き合う人を変える」という方法があります。
「朱に交われば赤くなる」ということわざがありますね。朱色の染料に浸かればどんなものでも赤く染まるように、人間は、周囲の人間に大きく影響されるものです。『これで金持ちになれなければ、一生貧乏でいるしかない。お金と時間を手に入れる6つの思考』(ポプラ社、2017年)の著者で公認会計士の金川顕教氏によると、自分の目標となる人(ロールモデル)と積極的に付き合い、思考・行動をまねてみれば、自分のコンフォートゾーンを変えられるのだそう。
自分の理想をすでに実現・実践している「ロールモデル」を見つけ、仲間にしてもらいましょう。友だちや会社の同僚・先輩などでもかまいません。“朝活” に取り組むサークルに参加するのもいいし、SNSのコミュニティで仲間を探すのもいいですね。朝活のサークルに入れば、早起きして勉強するのが習慣化した人たちに囲まれるため、「ホメオスタシス同調」が起き、自分にとっても「朝6時に起きて2時間勉強する」のが当たり前になっていくはずです。
解除する方法2:セルフトーク
ホメオスタシスを解除するには、「セルフトーク」という方法もあります。セルフトークとは、実現したい未来のイメージを、具体的な言葉で自分に語りかけることです。
苫米地氏によると、セルフトークでポジティブなイメージを刷り込むことにより、「エフィカシー(自己効力感)」を高められるのだそう。エフィカシーとは、自分の能力に対して持つ確信のこと。エフィカシーが高い人は「自分ならできるはずだ」という強い自信を抱けるので、困難や失敗にぶつかっても折れずに努力を続けられ、目標達成できる可能性が高くなるのです。
反対に、いつもネガティブで「どうせ失敗する」「自分にできるはずがない」と思っていると、その言葉が「負のセルフトーク」として作用します。どんどん自信とやる気を失い、さらに「負のセルフトーク」が増える……という悪循環に陥るので、注意してください。
苫米地氏の解説を参考に、セルフトークの3ステップを紹介します。
目標達成している自分を具体的にイメージする
まずは、目標を達成している自分の姿を明確に思い描きましょう。五感・感情を総動員して、なるべく具体的にイメージすることが大切です。
「年収2,000万円稼ぎたい」という目標をもっているなら、目標を達成した自分はどんな気分か、どんな家に住んでいて、どんな暮らしをしているか、細かいところまで詳細に考え、自分がワクワクできるような成功イメージを作ってください。
達成イメージを言語化する
第1ステップでイメージした未来像を、具体的な言葉に落とし込みます。言語化するときは、以下の点に気をつけてください。
- 「私は~している」という形で語る(一人称+動詞)。
- 現在進行形で語る。
- 「嬉しい」「誇らしい」など、ポジティブな感情を表す言葉を入れる。
以上のポイントを押さえると、以下のようなセルフトークができ上がります。
- 私は公認会計士の資格を取得できて、大きな達成感を感じている。
- 私は2020年に社内で営業成績がトップになり、とても嬉しい。
- 私は憧れの高級マンションで暮らせるようになり、とても誇らしく思っている。
- 私は一流のビジネスパーソンになって、世界を股にかけた天然ガスプロジェクトを率いている。
言語化したイメージを毎日、自分に言い聞かせる
ステップ2で言語化したイメージを、自分に向かって毎日言い聞かせましょう。ポジティブなセルフトークを潜在意識に繰り返し刷り込んでいくことで、エフィカシーを高めることができます。
もしも、自己評価を下げるようなネガティブな言葉を口にしそうになったら、ポジティブな言葉に修正してセルフトークをしてください。たとえば、「自分はどうして物事が長続きしないんだろう」口にしそうになったら、「長続きしないなんて、自分らしくないな」という具合に言い換えるのです。
セルフトークを実践すれば、自分の理想は「手が届かない遠くにあるもの」ではなく、「ごく当たり前の身近なもの」なのだという認識に変わります。「自分は理想を叶えられるんだ!」という感覚が持てるまで、セルフトークを繰り返しましょう。
すると、理想の未来を実現するためにホメオスタシスが作用しはじめるので、理想を実現する努力を当たり前に継続できるのです。