その早期離床では「ワッサーマンの歯車」という概念が非常に重要であり、理解が必要です。
これを理解していなければ急性期リハビリでの臨床は行えません。
復習のため、まとめました。
早期離床の定義
日本離床研究会によると、手術や疾病の罹患によっておこる臥床状態から、できるだけ早期に座位・立位・歩行を行い、日常生活動作の自立へ導く一連のコンセプトと定義づけています。
手術や病気になったからといって寝たきりにさせないで早く体を起こしましょう!という定義です。
しかし、早く起こすにしても様々な注意点があります。
そこで、ワッサーマンの歯車という概念の理解がとても重要になってきます。
ワッサーマンの歯車
- 酸素を口や鼻から細胞まで運ぶためには、全ての歯車を円滑に回す必要があります。
- 長期臥床は全ての歯車を停滞させ、無気肺・肺炎などの呼吸器合併症を生じさせます。
- この合併症・改善を考えるとき、早期離床はこの3つの歯車を同時に回すことができ、酸素運搬系の代謝メカニズムからアプローチ可能なため有用です。
人間はミトコンドリアに蓄えられたATP(アデノシン三リン酸)を使って活動してます。活動の原動力になるのがATPでその産生には酸素が必要で、この酸素を得るために人間は呼吸をしています。
離床は全ての歯車を回す
体位変換や座位・立位は換気効率を改善し呼吸の歯車を回します。
循環の歯車も体を動かすことで活発に回りだし、体液の分布は正常へと戻り、起立的耐久性も改善していきます。
立位・歩行へと進めば、体を支える筋肉だけでなく、全身の筋肉が動き出し、歯車はさらに回ります。
エネルギー産生・供給システムを維持するための、酸素と炭酸ガス輸送機構が持続的な身体活動、いわゆる「持久性」のキーポイントになります。つまり、全身持久性トレーニングは統合されたガス輸送機構のトレーニングなのです。
離床は全ての歯車を回す唯一の手段です。
Wassermanの解説
「細胞(内)呼吸と肺(外)呼吸の連関に対するガス輸送機構を説明する模式図の解説」
3つの歯車は、それぞれの系の生理学的要素の機能的な相互関係を示しています。筋における酸素消費量(QO2)の増大は、筋を灌流している血液から抽出した酸素量の増加、末梢血管床の拡張、心拍出量(一回拍出量と心拍数の積)の増加、肺血管の動員と拡張による肺血流量の増加、および換気量の増加などによってまかなわれます。
酸素は、肺血流量や肺血液のヘモグロビンの酸素不飽和化の程度に比例して、肺胞から摂取されます(VO2)。
定常状態においてはVO2=QO2となります。
換気量【一回換気量(VT )と呼吸数(f )の積】は、筋肉で新しく産生されて肺へ達する二酸化炭素量および動脈血の二酸化炭素と水素イオンが動的平衡にいたる流れに比例して増加します。
これらの指標は,次の式のような関係があります。
VCO2:CO2排泄量,VA:肺胞換気量,PaCO2:動脈血CO2分圧,PB:大気圧.
歯車は同じ大きさで示されていますが、連関の各成分における変化が同じであることを意味するものではありません。
たとえば、心拍出量の増加は代謝率の増加よりも小さく、著しく激しい運動中には血液から筋への酸素抽出が増加し、筋から血液への二酸化炭素排泄が増大することになります。
一方、中等度の運動強度では、換気量は静脈還流によって肺に運ばれる新生の二酸化炭素にほぼ比例して増加します。
激しい運動中は、代謝性アシドーシスが発生し、この代謝性アシドーシスを呼吸性に代償するために換気量が増大することになります。
離床の開始基準
- 強い倦怠感を伴う38.0℃以上の発熱
- 静時の心拍数が50回/分以下、または120回/以上
- 安静時の収縮期血圧が80mmHg以下(心原性ショックの状態)
- 安静時の収縮期血圧が200mmHg以上または拡張期血圧120mmHg以上
- 安静時より危険な不整脈が出現している(Lown分類4b以上の心室性期外収縮、ショートラン、R on T、モービッツⅡ型ブロック、完全房室ブロック)
- 安静時より異常呼吸がみられる(異常呼吸パターンを伴う10回/分以下の徐呼吸、CO2ナルコーシスを伴う40回/分以上の頻呼吸)
- P/F比(PaO2/FiO2)が200以下の重症呼吸不全
- 安静時の疼痛がVAS 7以上
- 麻痺などの神経症状の進行が見られる
- 意識障害の進行が見られる
離床の中止基準
- 脈拍が140回/分を超えたとき(瞬間的に超えた場合は除く)
- 収縮期血圧に30±10mmHg以上の変動が見られたとき
- 危険な不整脈が見られたとき(Lown分類4b以上の心室性期外収縮、ショートラン、R on T、モービッツⅡ型ブロック、完全房室ブロック)
- SpO2が90%以下となったとき(瞬間時に低下した場合は除く)
- 息切れ・倦怠感が修正ボルグスケールで7以上になったとき
- 体動で疼痛がVAS 7以上に増強したとき
離床には上記以外に血液生化学データからどうするか検討することも重要です。
また、病態によってはこの基準が該当しないケースも当然あります。この基準をベースに主治医・看護師等とコミュニケーションをとって離床させるかどうかを検討していくことが重要になります。