医学

「足底腱膜炎の保存療法:局所注射の効果と限界」文献抄読

昨日に引き続き足底腱膜炎です。

はじめに

足底腱膜のような筋・腱付着部(enthesls)は、運動で発生する強い力学的エネルギーに常にさらされているため、損傷を受けやすい環境に置かれている。このため、滑液包や脂肪体などのenthesls周囲の組織が一つの期間(enthesls organ)として機能し、entheslsを損傷から守っている(enthesls organ concept)。

Enthesls organは組織学的にみると関節の構造に類似しており、症状の発現には滑膜組織の関与が考えられる。また微小外傷に対する修復を繰り返すことでentheslsは変性し難治性への移行する。

我々はこのことに着目し、変性疾患の治療として有効性が確立されているヒアルロン酸の局所注入を足底腱膜炎に対して施行している。

ステロイド注射は短期では効果的であるが、長期での優位性は見られず、筋・腱の萎縮などの弊害も報告されているためスポーツ選手には避ける方が望ましい。ヒアルロン酸注射については不明な部分もあるが副作用もなく、有用であることが期待されている。

投与に際しては、超音波ガイド下に施行することがより安全に正確な投与ができる。

足底腱膜炎の病理

足底腱膜の踵骨付着部には、他の腱・靭帯付着部と同様に線維軟骨層を含む4層構造が観察される。

構造として特徴的なのは、線維の走行方向が付着部浅層と深層で異なっており、網目状構造となっていることが挙げられる。

また浅層での病理像は軟骨下骨板の破壊とそれに伴う血管の進入である。

深層での病理像は軟骨細胞の集積像と軟骨性細胞外基質の増加。多重tidemarkといった付着部線維軟骨の変性が主体であり、関節軟骨でみられる変形性関節症変化と類似するものである。

こういった組織学的所見からも、足底腱膜踵骨付着部には腱膜による圧迫力が加わっていることが推測され荷重関節ならぬ「荷重性付着部(Weightbearing enthesis)」といえるような特殊な組織像を呈している。

踵骨棘については、以前から足底腱膜付着部に発生した”traction spur”とされていたが、我々の組織学的検討により否定的であったことが分かった。

つまり踵骨棘は踵骨付着部深層の腱膜に接する形で形成されており、腱膜内に形成されるtraction spurというよりは、むしろ関節包や靭帯付着部辺縁に形成されるmarginal osteophyteの形態と同じである。

足底腱膜付着部深層には繰り返される荷重により”enthesis OA”が起こっているといっても過言ではない。

 

足底筋膜炎に対するヒアルロン酸注入

筋・腱付着部損傷の症状の発現には同部のOA様変化が関与していることより、症状の改善にはこの部分の滑膜組織への働きかけが必要になる。

このことに着目し、enthesisへのヒアルロン酸注入療法を行っている。

一般的にヒアルロン酸には抗炎症作用、関節軟骨修復作用などが報告されており、変形性膝関節症や肩関節周囲炎などに投与され、その効果とともに生体への安全性が確立されている。

足底筋膜炎に対するヒアルロン酸の投与成績

165例の足底筋膜炎患者を3群に分け、それぞれに2.5mlの高分子ヒアルロン酸、0.8mlの高分子ヒアルロン酸、placeboを投与しdoubleblind studyを行った結果。

2.5mlのヒアルロン酸の足底筋膜付着部への投与は症状改善に有効であり、足底筋膜炎の保存療法の1つの選択肢となり得るのではないかと考えられた。placeboの投与でも症状の改善を認めるが、これは侵襲性の操作によるplacebo効果と癒着の除去や付着部周囲の洗浄効果によるものと考える。

おわりに

注入部位を的確に施行すれば短期的には良好な結果が得られているが、長期的効果や作用メカニズムについては未だに不明な点が多い。

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